GUEST ROOM39-1
BL以外の視点から早乙女さんのファンになった私は、攻の早乙女さんは兎も角、
受の早乙女さんが、ドラマCDのディスク2発売以降も、しばらく苦手だったんですが、
この夏野 行様の「仮面」を、エスケ・ファンの方からご紹介頂き、サイト「Love
confusion」で
初めて読ませて頂いた時には、正しく目から鱗の心境でした。
雄々しさを失わず、尚且つ、色気もある、この早乙女さんは、必見です。
2005年1月、夏野様のサイトでも、閉鎖直前に、5話と完結編の6話もアップされた、
この物語、ウチのレイアウトで、お楽しみ下さいませ。
「仮面-第1話-」 作・夏野 行
「流行ってるのか、その店」
「ああ。この界隈では売上No1らしいぜ」
低い声でささやきながら、スポットライトを用いたやや派手な演出のエントランスを足早に通り抜けて。一渡り店の中を見回し、なるほどと哲平は顎を引いた。
テーブル席は10ほどでほどほどの広さだ。質のいいシックな雰囲気で内装をまとめてある。ソファといいテーブルといい、壁の装飾用絵画といい、この手の店にはそぐわないほど上質な品を入れている。
素早く視線を走らせる。左壁際にバーカウンター。その横に非常口がひとつ。上客用だろう奥に続く革張りのドアがひとつ。従業員用と思われるドアがさらに右奥にひとつ。
不健康なほどには薄暗くない照明の中で、たくさんの女性客が笑いさざめいていた。客層を見ればその店の質がわかる。馴れた風な水商売の女が大半だが、みな崩れた感じはなく品がいい。それをもてなすホストも身奇麗な美男揃いだ。
酒と煙草の匂いが漂う。甘いささやきやヒソヒソ声の中で繰り返される美辞麗句。意味ありげな目線と仕草。触れるか触れないかの距離を保った、きわどい会話。
(よくやってられる)
商売でやっていることを卑しむつもりなどないが、商売女のヒモになり情痴のもつれから刃傷沙汰を起こし警察に世話になる、そんな男達を見慣れているせいか、ある種の色眼鏡があることは否めない。
「さて、仕事するか」
相棒の呟きにふと我に帰り、頷いた。つかつかとバーカウンターへ歩み寄ると、バーテンに声を掛けた。
「おい――ここの責任者は…」
「何か御用でしょうか」
いい終える前に声が掛けられた。低くよく響く声だ。傍らで空気の動く気配がして、スツールに掛けていた男が音もなく立ち上がった。
こちらに向けられたその顔に、哲平は一瞬視線を奪われた。男にしておくには惜しいほど、端正な美貌だ。切れ長の瞳がまっすぐに彼を見つめている。
「な…んだ、お前は」
胸のうちで呟いたつもりだったのに。気づいたらそう声に出していた。
「なんだとはご挨拶ですね。ここをどこだと思っているんです?」
ふふ、と微笑みながらも、その眼だけがヒヤリとするような光を浮かべている。
「私が責任者です。ホスト長の早乙女と申します」
低く癖のある声音までが魅力的だ。ざわ、と言葉にならない感触が哲平の背を走り抜けた。
「…ここに、木崎ってホストがいるはずだが」
背後の相棒を気にしながら、努めて威圧的に訊ねる。
「木崎ですか」
形のいい爪を顎に添えて、早乙女はふと視線を泳がせてから答えた。
「…ああ、彼は今夜同伴です。来るのは10時を過ぎるかと。…いったい彼が何を?」
笑みを崩さず、早乙女が尋ねた。
「アンタに云う義務はない。職務上の秘密ってやつだ」
「見たところ…物騒な連中を御し慣れている感じですね、あなたは」
傍らでバーテンに職務質問をはじめた同僚をチラと見ながら、哲平はグイと男に顔を寄せた。ヤクザすら一目置くこの自分を、眼で量って言い捨てたこの男に、無性に腹が立っていた。
「10時か。じゃ、それまでここで待たせてもらうぞ」
スツールに腰を下ろそうとした哲平に、
「お断りします」
間髪入れず早乙女は言葉を返した。
「なに?」
「お客様のご迷惑になりますので。どうぞお引き取り下さい」
鋭い視線を向けても、どこ吹く風とばかりに涼やかな目元で微笑んでいる。
「なかなかの食わせ物だな、アンタ。ま、そのぐらいでなきゃホストなんて務まらねぇか」
「…さぁ、どうでしょう」
曖昧に答えて、目線が横に流れた。笑みを含んだ口元に艶が滲んでいる。哲平は強面の顔を保つために、グッと目元に力をこめなければならなかった。
「どうも油断ならねぇな、アンタは」
「なら、私を見張っていればいいでしょう…ずっと」
囁くように呟いた早乙女の吐息が、哲平の頬に触れた。
「私が木崎に来るなと連絡を入れるとでも?」
「ヤツがブタ箱にでも入れられたら、アンタだってそう笑ってられなくなると思うが?」
苛立ってつい声が大きくなっていたらしい。早乙女は敏感に反応した。素早く周囲に目線を走らせると、
「こちらへ」
不意に、哲平の腕に手をかけた。
「仕方がありません。どうしてもとおっしゃるのなら、奥へどうぞ」
「奥?そのおキレイな顔で俺の相手でもするってのか?断っとくが俺のはデカイぜ」
口をついて出たのは、自分でも驚くほど下卑た言葉で。しかし早乙女はそれを淡い微笑で受け流し、こう答えた。
「それは楽しみですね」
「さて…事情を聞きましょうか」
裏の事務所は狭く、店とは正反対に殺風景な部屋だった。小さなソファとガラステーブル、壁際には従業員用らしいロッカーが並んでいる。
早乙女は哲平と向きあってソファにもたれると、急にくだけた口調になった。今まで彼を覆っていた慇懃な仮面がひとつ外れ、またその下から新しいこの男が見えてくる。それを見逃すまいとつい身を乗り出した哲平に、小さくクスリと笑って。
「なんて顔をしてるんです…刑事さん。まるで飢えた野獣だな」
「な…にっ―――」
「私が気になりますか」
見透かされている、と思った。傲慢な言葉だがこの男の口から出るとそう感じない。笑い飛ばして馬鹿馬鹿しいと否定すればいい。頭ではそう解っていながら、口に出すことは出来なくて。
哲平は長い片腕を伸ばし、早乙女の襟首を乱暴に掴み寄せた。
「なるほど。言葉ではなく腕力を使うのはいかにも野蛮なあなたらしい」
「て…めぇ。オレに喧嘩売ってンのか?」
「いいえ」
ゆっくりと前かがみに身を起こした早乙女は、赤い舌先を覗かせて唇を舐めた。
「そんな趣味はないですよ…野蛮な野獣を手なづけてみたい、とは思うけれどね」
「――――!」
それはほんの一瞬の出来事だった。目の前の美貌がスイと近づいたかと思ったら、唇に温かなものが触れた。それはすぐに濡れた柔らかな感触へと変わり、哲平が驚きのあまり口を開いた隙に、絡みつく舌が口腔へ侵入した。
「っ……んっ」
きつく舌を吸われてゾクリと腰が疼く。先を絡めるように口腔を弄られ、耳の後がチリチリと総毛立った。
「なかなか、セクシーないい声だ」
ふふ、と耳元で微笑む声と同時に、ガラステーブルを乗り越えて来た早乙女の体重ごと、背後のソファに押し倒された。
「な、何を―――」
「確かに大きいな」
片手がするりと哲平の固く熱くしこったものに触れ、撫であげる。
「うぁっ、ちょっと……待っ!!!」
「楽しめそうだ」
生地越しにやんわりと握りこまれて、思わず息が荒ぶる。
「ほ…本気で…」
「もちろん。冗談でこんなことはできないよ」
ふたたび噛み付くようなキスが、哲平の視界を奪った。見えないままにベルトの金具がカチャカチャと鳴り、ジッパーが下ろされ。空気に晒された哲平のそれは、凶悪なまでに天を向いて勃ちあがっていた。
「もうこんなに固い…最初からその気だったのかな」
指先を絡ませてフフ、と微笑んだ早乙女の目元も欲望に淡く染まっている。一度深く舌を絡ませると身体をずらし、いきなりそれを口に含んだ。
「う……くぅっ」
熱く脈打ったそれが、絡みつく舌の動きに反応してグンと容積を増す。片手がゆっくりと根元を撫で上げ、もう片方の手がゆるゆると幹を扱く。そのまま首を振る動きに、鍛えられた腹筋がビクリと揺れた。
「いい身体してる…」
哲平の反応にまたクスリと笑いを零しながら、早乙女は舌と口腔の全てで念入りに愛撫した。
信じられないほど、身体が熱く昂ぶってゆく。かつてどんな女とも経験したことの無い快感が、電流のように体中に飛び散っている。今にもショートして焼ききれそうだ。
「あ…す…すげぇ…イイぜ、っ…!」
気づくと、無意識にそう呟いていた。
羞恥やプライドは遠く彼方にあって、ただ快楽の波にダイブしたい欲求だけが
哲平を支配していた。
「まだ早すぎるよ。それとも溜まっているのかな?」
指先を巧みに動かして、それでも根元はやんわりと握りながら、早乙女が光る眼で訊ねる。せき止められた欲望が渦を巻き、哲平は顔を歪ませた。
「よ、せ…もう…」
「それで。木崎は一体なにをしたんだ?」
早乙女の声に目を開いた。今までの狂態がウソのように冷静な声音だった。
「て…めぇ…」
「云わないとずっとこのままだよ?」
繰り返した彼は、再び口腔に最大値まで屹立したものを含む。それは大きく、すでに彼の口には入りきらぬほどだったけれど、先端をきつく吸いたてる動きに、哲平は思わず身をよじって呻いた。根元を握りこむ力が増し、行き場のない快感が狂うほどの焦燥を生み、両足の指先がひきつる。
「…く…しょっ……」
両腕に力をこめる。力づくで突き飛ばしてしまえば逃れられるのは解っていた。けれど、今感じているこの快楽を手放すことになる。
欲望が理性を突き崩した。
「や――」
「なんだい?聞こえないよ」
「…く…ヤクの…売人ルートに、名前、が…」
霞む視界の中、大きく目を見開いた早乙女が映った。と同時に。
「うっ―――くは…ぁっ」
快楽は限度を超え、哲平はその証を彼の手の中に放った。
「あの…ホスト長。ご指名が――――」
ドア越しに掛けられた声に、淡々と後始末をしていた早乙女が顔をあげた。
「解った、いま行く」
肩で大きく息をしている哲平へ、ポンとティッシュの箱を放って、上目遣いに彼を見た。
「…なんだ。どうした」
思わず問い掛けた哲平に、つと眼をそらせた。その横顔に隠しようのない艶が滲んでいる。
低く聞き取れぬほどの声音が、呟いた。
「続きが欲しかったら…明晩」
早乙女は聞き返す間も与えず、そのままドアの向こうへと消えた。
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