GUEST ROOM39-3
「仮面-第3話-」 作・夏野 行
部屋に、湿った音が響いている。
絡み合う吐息が獣そのものだ、と頭の隅で思う。
早乙女はソファの上、膝立ちした哲平に跨って大きく足を開いている。上着を床に落とし、ネクタイをむしり取って。何かに憑かれたようにせわしなく腰を動かす哲平に揺さぶられ、大きく背をしならせ。
「ひっ…ぐ、うっ――――は…」
時折苦悶にも似た表情で目を閉じ、耐え切れぬように首を振る。
仰け反った白い胸には、紅く熟れた粒が見えた。両の粒を摘んで爪を食い込ませる。
「よ…せ、痛っ…」
小さく叫んでから、羞じるように悔しげに唇を噛む。そんな表情にたまらなくそそられる。ますます昂ぶる。
受け入れるのが初めてでないことは、身体を繋いだ時に解った。一度は狭い空洞の途中で立ち往生したが、腰を浮かせ促すような早乙女の動きにすぐ、最奥へと到達した。その場所は適度に柔らかく熟らされていて、異物の侵入を拒みもせずたまらぬ心地よさで締めつけてくる。
そこで快楽を感じることにも馴れているはずだ。片膝を抱え上げ、角度を変えて腰を捻るようにして突き上げると、声が跳ね上がった。
「ここか」
ある箇所で、腕に抱いた背が震えた。見つけ出したスポットを狙って、深々と腰を突き入れる。
「う…あぁっ―――」
白い肌が艶かしい桜色に染まる。触れ合った身体が燃えるように熱い。
哲平はニヤリと笑って見せた。
「たっぷり可愛がってやる」
「できる…ものなら、やってみろ」
「とりあえずその口塞いで、もっと鳴いてもらおうか」
噛み付くように唇を塞ぐ。舌を絡めて貪りながら、肩を両手で押さえ込み真下から突き上げた。声にならぬ声が喉の奥から漏れるのも構わず、ガタイいい男の身体に欲望を穿つ。それは征服欲と同時に不思議な快感をもたらした。女と寝たことは何度もある。だが、こんな感覚は初めてだ。
夢中になって没頭するうち、不意に早乙女の身体がガクガクと揺れた。
一度目の解放を迎え、早乙女は哲平と己の腹に白濁を零した。
「く―――…すげぇ…イイ」
強烈な締め付けと同時に耐えがたい快感が背を駆け上がり、哲平も快楽の波をなんとかやりすごさねばならなかった。額からは汗が滴っている。
「なぁ…いままで何人の男と寝たんだ」
早乙女がうっすらと目を開いた。が、瞳はうつろで焦点があっていない。
まだ繋がったまま、抉るように腰を使うと湿った水音が響く。
「聞こえるか?いやらしい音がしてるぜ…女みたいにな」
「…お、んな、じゃ―――」
「ないって?でも欲しがってこんなに締めつけてるじゃねぇか」
違う、と睨んだ目の奥に隠し切れぬ欲情が滲んでいる。
「ま…確かにな。女にこんなものはついてねぇよな」
一度放ったそれを握りこみ、先端を弄る。幾度か強弱をつけて扱くと、牡がまた頭をもたげてくる。
美貌が大きく歪んだ。素直に快感を受け入れ享受している貌だ。
「…っ」
二度目だから感じやすくなっているのだろう。縋る男の爪がシャツ越しに深く食い込む。痛みと快感がないまぜになって、ズクンと体積が増した気がした。早乙女が切なげに眉根を寄せガクガクと首を振っている。
「あんまりイイ顔するからデカくなっちまった」
「―――お前…しつこ…」
「仮面の下のアンタはこんな顔なのか。最高だぜ…昼も夜もこうしていたい」
「冗、談……いい加減にっ―――」
「冗談じゃねぇよ」
耳を舐めるように低く囁いて。哲平は不意に勢いを増した。
「あ―――うああぁっ!!!」
真下から突き上げられ、早乙女の口から悲鳴に近い声が漏れる。
「冗談なんかじゃねぇ。…あんたの声、クるしな」
「ひっ…ぐっ…ぅ、あああああっっ!!」
「そろそろ俺も限界――だ」
溶け合ってしまいたい。この身体とひとつになってしまいたい。
それは哲平は初めて感じた強烈な、心底からの願望で。
「う…あ――――はぁぁぁっ!」
「――イイ…ぜ。いいっ…くぅっ!」
弓なりにしなる男の身体が絡み合い、二人は同時に昇りつめた。
脱力したのちしばらく、二人は互いの身体にもたれて動けなかった。静まり返った部屋に置時計の時を刻む音だけが聞こえる。
だが、その静寂は予告もなく破られた。
「失礼します。早乙女さ―――」
ノックと共にドアの向こうに現れた青年は、大きく息を呑んだ。
「ああ、アキラ…」
アキラと呼ばれた青年はソファの上、まだ繋がったままの二人を凝視していた。やや間を置いてのろのろと動いた彼はドアを締め切り、鍵をかけた。
「な…に、してるんですか」
ようやく口を開いた。早乙女が答えるより早く哲平が云う。
「見りゃ解るだろ。お前こそなんだ」
「うちの従業員ですよ。…藤沢さん、そろそろ退いてもらえませんか」
「あ、ああ…悪ィ」
ずるりと。力を失ってもなお人並み以上の哲平のそれが、早乙女の内から引き抜かれる。目を背けたアキラが、吐き捨てるように云った。
「…昨夜来た刑事さんですよね。どうして――――こんな」
「指名か?」
訊ねた早乙女の声は場違いなほど平静だった。
哲平がクイと眉を吊り上げる。
「は、はい…」
「刑事さんはもうお帰りだ。お見送りしてくれ」
早乙女は身支度を整えると、そういい置いて部屋を出ようとした。
「おい――」
待て、と声をかけようとしてアキラに遮られた。
その目の奥に燃えるようなかぎろいが浮かんでいた。
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